シリーズ企画「ドイツサッカー論」
【第二回目「本気の間合いを感じた瞬間」】


ドイツサッカーとブンデスリーガの魅力、さらにはブンデスリーガで活躍す
る日本人選手について、サッカー解説者が独自の視点で語る「ドイツサッカー論」。


 

第2回目は元日本代表MFの福西崇史さんにお話をうかがった。

 

2006年にドイツで行なわれたワールドカップに出場し、ドイツ代表とも二度対戦して
いるかつての名ボランチの皮膚感覚は、我々に新たな視点を提供してくれる。

 

「 日本代表の国際試合で色々な国と対戦しましたが、強豪相手ではドイツとア
 ルゼンチンがすぐに思い浮かぶんです。

 ドイツとは2004年12月にホームで、06年のワールドカップ直前にアウェイで対戦しました。
  横浜で行なわれた04年のゲームは0-3で敗れたのですが、印象に残っているのはバラックですね。

 彼とは何度もマッチアップをしました。


 プレースタイルとしては、とてもシンプルだったと思います。

 僕ら日本人に比べれば、もちろんテクニックはありますよ。

 でも、それだけじゃないんです。

 技術を使うべきところを、分かっているんでしょう。彼を自由にさせると ドイツの攻撃が機能しますから、

 何とかやらせないようにしなきゃ、というのは試合中ずっと考えていました。

 

   福西1
 

 かつてのドイツと言えば、皆さんご存じのように強さと激しさが特徴だったと思います。

 身体能力に優れ、高さもある。僕が初めて対戦した04年当時も、強さと激しさは強烈でした。

 それに加えて、テクニックが強みに加わりつつあったような段階だったと思います。

 いま現在の代表チームにつながる雰囲気がありました。

 

  二度目の対戦となったドイツ・ワールドカップ直前のテストマッチは、スリリングな攻防となった。

 福西さんとともにジュビロ磐田の黄金時代を築き、当時ハンブルガーSVに所属していた

 高原直泰(現清水エスパルス)が57分、65分と立て続けにゴールネットを揺らし、

 アウェイの日本が2点のリードを奪う。

 最終的には2-2のドローに終わったもの、ジーコ率いる日本代表のベストマッチとも言われた。
 もちろん、福西さんもフル出場している。

 

  うん、あのゲームは良かったですね。チーム全体の動きが良かったので、

 ドイツ相手にも後手にまわることがなかった。ボールをはたかれて、またはたかれて、

 という展開になると厳しいんですが、むしろ僕らのパスワークがドイツを置き去りにすることもありましたし。
  スコアが0-0だった前半から、ドイツの選手たちはイライラとしていましたね。

 うまくいっていなかったのでしょう。

  相手がどれぐらい本気なのかは、敏感に察することができます。

 分かりやすいのは間合い。

 テストマッチなどでケガをしたくなければ、ある程度距離を置いてくる。

 本気ならガチッと詰めてくる。ガツンとあたってくる。

 あの試合のドイツは、間違いなく本気でした。

 そういうこともあって、加地がシュバインシュタイガーに削られちゃった んですけど……(※1)。


  タカのゴールは気持ち良かったですね。レーマンみたいな素晴らしいゴールキーパーが、

 どうしようもないという感じでしたので。
 

  印象に残った選手ですか?  それはやっぱりバラックです(笑)。彼をどうやって抑えるのかが、

 この試合でも僕のテーマでしたから。」

 

 

ドイツ・ワールドカップの前年に行なわれたコンフェデレーションズカップ

(コンフェデ杯)にも、福西さんは日本代表の全3試合に出場している。

コン フェデ杯では2週間弱、ワールドカップでは事前合宿を含めて1か月強にわたってドイツに滞在した。

 

■FIFA主催の国際大会を通して感じた、ドイツという国の印象は?

 

 

 「 国際大会のときって、基本的には練習と試合の繰り返しなんです。

 オフがま ったくないわけではないですが、観光するとかいうのはちょっと難しい。

 コンディションのことを考えると、練習や試合以外の時間はどうしてもホテルで過ごしがちです。

 

福西2
 

 そうは言っても、せっかくドイツに行ったわけですからね。

 「本場のソーセ ージは食べておきたいよなあ」と選手同士で話していて、散歩をしたときに食べたんです。

 代表の活動中は食事もすごく気を遣うんですが、もう時効だからいいでしょう(笑)。


  コンフェデ杯やワールドカップでは、サッカーが「根付いているなあ」と感じました。

 散歩をしていてもサッカーの話題が聞こえてくるし、テレビ番組は 大会前からサッカーばかりで。

 商店街とかを無理に装飾しているわけではない んだけど、

 ふと気がつけばサッカー関連のグッズとか記事が目に飛び込んでくる。


 だからといって、お祭り騒ぎのような雰囲気ではないですよね。

 国際大会を 開くのは確かに特別なことでしょうけど、準備が整っているというか、

 非日常 のなかに日常があるとでも言えばいいのか……。

 それが「根付いている」とい うことなんでしょう。

 サッカー文化の奥深さを体感しました。


 あとはやっぱり、スタジアム!  どこも素晴らしい!  舞台が整っていますよ。

 選手からすると最高に気持ちいい。
 個人的には観客席との近さを感じられるスタジアムが好きなんです。

 相手のサポーターでビッシリとスタンドが埋まったアウェイでも、観客席が近いほうがいい。

 モノさえ投げられなければ、ですが(笑)。
 ワールドカップの初戦を戦ったカイザースラウテルンのスタジアムは、日本 のサポーターの皆さんも、

 自分の家族も、どこにいるのかがピッチからハッキ リ見えました。


  ブラジルとの第3戦は、香川選手がプレーするドルトムントのヴェストフ ァーレン・シュタディオン。

 ナイトゲームだったこともあって、独特の雰囲気を感じました。

 観客席がピッチに覆い被さるようなあの空間は、文句のつけど ころがないでしょう。

 香川選手が羨ましいですね。

 

  02年の日韓、06年のドイツと二度のワールドカップを選手として経験した福西さんは、

 10年の南アフリカ・ワールドカップを解説者として過ごした。「伝 える側」へ立場を変えてみると、

 気づかされることがあった。

 

  選手だった当時は、国内だけでなく海外メディアの多さとかファンやサポーターの盛り上がりとか、

 注目度が増すことによる「ざわつき」みたいなものを感じていたんです。

 でも、メディアのひとりとして南アフリカへ行ってみると、盛り上がりをストレートに感じることができました。

 スタジアムの周りだけでなく街中とか空港とか色々なところで、

 様々な国の人たちが盛り上がっている。

 サッカーが世界を動かすじゃないけれど、ワールドカップのスケールの大きさを改めて感じました。

  ドイツの人々にとって、サッカーは生活をしていくうえで必要不可欠なものになっている。

 あんなにもサッカーが身近な環境は羨ましいし、素直に素晴らしいと思う。

 代表チームの強さや国内リーグのレベルの高さは、ピッチのなかだけで作られているのではないんですね。


(次回は宮澤ミッシェルさんが登場します)

 

 


(以下、第3回目へ続く)


[福西氏の注目選手①]ミヒャエル・バラック(レバークーゼン)

 

「僕のなかでのドイツ人選手として、バラックは絶対に外せない選手です。

 一番の特徴としてあげたいのは『安定感』です。

 ひとつの試合のなかでも、シーズンを通しても、プレーのレベルに波がない印象が強い。

 驚くような個人技を持っているわけではないけれど、基本技術がしっかりとしているからなんでしょう。

 同い年の選手ですし、国際試合でユニホームを交換したこともあるので、

 バラックには頑張ってほしいんです!」

 

[※1]前半38分にシュバインシュタイガーのタックルを受けた加地亮(ガン バ大阪)は、そのまま駒野友一(ジュビロ磐田)と交代。ワールドカップの第 1戦も欠場することとなった。

2012/2/11
スポーツライター戸塚啓