シリーズ企画「ドイツサッカー論」
【第3回目「ブンデスリーガと日本人」】

 

 2012年2月現在、ブンデスリーガでプレーする日本人選手は9人を数える。

今冬の移籍マーケットでも、ロンドン五輪世代の酒井高徳がシュツットガルトへ移籍した。

新天地を求めた選手たちは、それぞれの所属クラブで価値ある働きを見せている。


 

日本人選手がブンデスリーガで躍動する背景には、どのような要因があるのだろうか。

宮澤ミッシェル氏の第2回コラムは、『ブンデスリーガと日本人』がテーマだ。

 




「日本とドイツのつながりをたどっていけば、1960年代に日本代表のコーチを務め、

“日本サッカーの父”とも呼ばれたデットマール・クラマーさんがドイツの方です。

クラマーさんの教えは日本サッカーの基礎としてずっと受け継がれてきたので、

ドイツのサッカーやドイツ人の考え方が、日本人には馴染みやすいと思うんです。

 

そのうえで話を進めていくと、日本人選手がブンデスリーガで活躍できている要因には、

ふたつの側面がある。ひとつは国民性が似ていることで、もうひとつはプレースタイルです。

ドイツのサッカーから感じられるものと言えば、まず思い浮かぶのは『規律』でしょう。

日本人は真面目だから、ドイツ的な規律にも無理なく溶け込める。

ストレスを感じる場面が少ないと思うんですよ。具体的には、監督に言われたことを

しっかりとやり通すことができる。やり通すだけでなく、繰り返し同じことができる。

タッチライン際を何度もアップダウンするとか。ハードワークができるわけです。

パフォーマンスにムラがなく、安定してプレーできることが、評価されていると見ています。

たとえば、本来のポジションではないところで使われても、日本人はとにかくやってみるでしょう。

ラテン系の選手なんかは、違うんですよ。『いや、オレはできない』と拒否する選手もいる。

チームのために、というメンタリティで戦える日本人の気質は、ドイツサッカーに合っている。

対照的なのはスペインのリーガ・エスパニョーラですね。

ドイツなら、味方にはたいてリターンをもらって崩して、という局面でも、

スペインはひとりでいけ、ドリブルで仕掛けろ、というスタンスが前に出る。

自分でガンガンいっちゃうほうが評価されるんです。

日本人はどちらのメンタリティに合っているかと言えば、やはりドイツでしょう」

 

国民性とプレースタイルというふたつのキーワードを、各選手に当てはめてみる。

ドイツから嬉しいニュースが届く理由が、くっきりと浮かび上がってくる。

 

 「たとえば、長谷部誠。プレーが堅実でハードワークができて、どんなポジションを

任されてもクオリティが高い。監督からすると『彼なら、これぐらいはやってくれるだろう』

という計算が立つでしょう。諦めないメンタリティもありますよね。

ドイツ語を学んで、直接的にコミュニケーションを取っているのも大きい。

 

 香川真司は技術が高い。テクニックが豊かで、なおかつ俊敏でしょう?

リトバルスキーに似たタイプだな、と思う。現役時代のリティは

『ドイツ人らしからぬテクニックを持つ』と言われていたけれど、香川はまさにそう。

大柄なドイツ人にはできないプレーを、軽々とやってのけているからね。

1月の再開後はチームの攻撃を牽引しているけど、出場機会さえ得られれば

あれぐらい働けるのは当たり前。2月のケガは残念だったけど、

今シーズンはリーグ戦で確実に2ケタ得点を記録するでしょう!

ユルゲン・クロップ監督も、それぐらいの数字は計算しているだろうし。

 

 頑張ってるなあ、と感じるのは岡崎慎司。シュツットガルトではサイドの選手という

扱いになっているけれど、それに対して悔しさを隠さない。

『ディフェンスを良くやる前線の選手と思われているけれど、自分はゴールが取りたいんだ』

って言う。あのメンタリティが、僕は大好きでね。

攻撃的なサイドのプレーヤーにも、現代サッカーは守備を求める。

それに、あれだけディフェンスもやってくれると、後ろの選手は本当に助かるもの。

守備の意識はこれまで同様に持ち続けて、決定的な仕事を増やしていくことが理想的だ。

サイドが基本なので難しいところはあるけれど、10ゴールは取ってほしい。取れる力もある。

そうしたら、評価はグッと上がるだろうね」

 

センターバックやボランチとして活躍した宮澤氏が、ドイツでプレーするディフェンダーを

どのように見ているのかも気になるところだ。こちらは、次回の更新分でお伝えしよう。

 


(以下、第3回目へ続く)


[ミシェル氏注目選手②]トーマス・ミュラー

「初めて見たときから、これは面白い選手だなあと思ったね。
186センチの恵まれたサイズでありながら、総合的な能力が高い。
高さあり、強さあり、ドリブルあり、シュートあり。
走りながらのボールコントロールも見事でしょう。
 パスを受けてからの仕掛けに、迷いがないところもいいなあ。
しかも、複数のポジションに対応できる。21世紀のモダンフットボールにふさわしい。
南アフリカ・ワールドカップでセンセーショナルな働きを見せたけど、実はまだ22歳だから驚く。
日本で言えばロンドン五輪世代なんだ。生まれ変わったドイツを牽引していくひとりだね」

 

宮澤ミシェル氏プロフィール

1963年7月14日、千葉県生まれ。

国士館大学卒業後の1986年、フジタ工業サッカー部(現湘南ベルマーレ)に加入。

日本サッカーリーグで131試合に出場する。92年に市原(現ジェフ千葉)へ移籍し、J1リーグ通算58試合出場2得点。クレバーなディフェンスと正確なフィードを持ち味に、センターバックやボランチとして活躍する。

94年に日本代表に選出された。95年の引退後はサッカー解説者として活躍。


2012/02/25
スポーツライター戸塚啓