2023/02/16

絶好調ドルトムントの象徴、チェルシー撃破の裏にあった光と影

©︎IMAGO/Beautiful Sports

 確かにボルシア・ドルトムントは火曜夜に行われたチャンピオンズリーグ16強チェルシーFC戦において、1−0とまずはファーストレグをものにしたことにより8強進出への希望がみえてきた。だがそれでも試合後DAZNとのインタビューでテルジッチ監督は、「終盤でチェルシーはかなり優勢に試合を進めていたし、我々の側も安易に最終ラインまで侵入させてしまった」と「最終的には幸運、そしてGKによって」手にした勝利であることを隠そうとはしなかった。

 特に40歳のドイツ人指揮官が気になった点が、「ボール奪取という点で何度かうまくいっていたのだが、それをまたすぐにロストしてしまったことだよ」と指摘。それでもトータル的に振り返ってみれば満足できるものであり、「ポジティブな点だって多く見受けられていた。なにより大事なのが結果。チェルシーとの対戦がいかに困難であるかはよくわかっているんだ。それでも良い一歩は踏み出せていると思う」と付け加えている。

 その貴重な得点を挙げたのが最近ではレヴァークーゼン戦、そしてフライブルク戦でも得点を決めるなど、まさにいま波に乗るカリム・アデイェミだ。先日にはブンデスリーガ史上最速スピードを計測したことでも話題となったドイツ代表FWは、相手CKを味方がクリアしたボールを受け取ると、自慢のスプリントでピッチの3分の2を爆走。最後は相手GKケパまで振り切る爆走でチェルシーのゴールネットを揺らしてみせた。

 「あの時は、とにかく持ち堪えることを考えていた。まずはマークを交わさないといけなかったし、そうしているうちに相手GKとの対人戦となった。最後はちょっとラッキーなところもあったね」と回顧。おそらくそれはケパを交わした際に、まだ指先がボールに触れていたことを暗に示した発言であろう。テルジッチ監督も「前半戦ではあまりみせられなかったクオリティ」を発揮したこのプレーに満足感を覚えており、冬には不遇のW杯も味わったがそれでも「努力の結果として報われたのだ。無論、冬季に懸命に取り組んだのは彼だけではないがね、このようにパフォーマンスとして表れていることは素晴らしいことだよ」と目を細める。

 逆にチェルシー側からいえばツキに見放され、また守護神コーベルの前にゴールを破れなかった試合だった。「グレゴールは本当に調子が良くて、本当に彼がいてくれて助かったね」と指揮官。それでもクリバリが放った強烈なシュートは威力を和らげても、そのままゆっくりゴールに向かっていたが寸手のところでジャンがクリアした。ゴールライン判定技術まで導入されたギリギリのプレーの後、ジャンは味方からまるで得点を決めた選手のように熱く迎えられることに。年明けから浸透を感じさせる新たなメンタリティが垣間見える瞬間でもあり、実際にこの試合で相手の総走行距離を6キロ上回ってスプリントも多く、アデイェミが見せた個の力と、ジャンが見せた協力プレーによって勝利をもぎ取ってみせる。

ジャン「努力は裏切らない」

 長年その浮き沈みの激しさが指摘され続けてきたドルトムントだが、夏に本来のクラブカルチャーを知り尽くしたテルジッチ監督招聘した効果が功を奏し始めたか、コーベルもジャンのクリアシーンについて「僕たちのプレーの象徴。闘争心、献身性、結束力、互いのためにプレーする証」と胸をはった。ジャンも「僕らはとにかくお互いのためにプレーしようとしている」と同調し、「まずグレッグがワールドクラスのセービングをみせてくれた。それからボールが僕のほうに転がってきたから身を挺してクリアしようとした。ただそれだけで、それが結果的にはうまくいったということだよ」と喜びをみせる。それだけではない。アデイェミが70メートルものスプリントを見せて決めたまさにあのゴールシーンこそ、ドルトムントファンが愛してやまない彼らのサッカーであり、2010年代に欧州へとその名を轟かせた象徴的なプレーの1シーンだ。

 「僕らは良い選手が揃っているだけのチームではない。僕らは”良いチーム”なんだ」とジャンは強調しつつ、改めて試合を振り返ると「タフな試合で、最終的には幸運な勝利だっただろう。でもチーム一丸となり戦って掴んだものだ。」とテルジッチ監督やコーベルと同調。「ベストパフォーマンスとまではいえなくとも、チームとして戦えた。過去には全てではないけど、少しルーズな試合もあった」と振り返ったが、前述のように「支え合う」意識がジャンをはじめ体現できているということなのだろう。まさにジャン自身がその象徴的存在であり、年明けから全勝を続けるドルトムントにおいて納得のパフォーマンスを披露しているところ。前半戦では特にリーグ戦で出場機会がなく、ワールドカップ出場も逃したジャン。この日の会場にはドイツ代表フリック監督やフェラー氏の姿もあったが、変化のきっかけは何だったのだろうか?

 「結局のところ、努力は裏切らないということだと思う」と述べ、「自分自身に対して厳しく取り組んでいくよう心がけている。年が明けてたくさんの目標を自分に誓って、「不撓不屈の志」を常に自分に言い聞かせている。ピッチに立っていてもいなくても、そこで自分が腐らずにしっかりとやっていくということ。それを追求しているんだ」と語った。「今季の前半戦では決して良い時間を過ごせたわけではなく、そこでフェアなのかフェアじゃないのかは本来、自分ではなく他人がみることなんだけど、でも少し影響を受けてしまった」

ロイス、CLで初めて90分間ベンチ

 今まさにその境地に直面しているのが、マルコ・ロイスだろう。試合前には「我々にとって引き続き、非常に重要な役割を果たしてくれるはずだ」とテルジッチ監督から期待を示されていたキャプテンだったのだが、チームが歓喜に沸く中でそれをベンチから90分間見守るほかなかった。チャンピオンズリーグの舞台でこれをマルコ・ロイスが経験したのは、実はこの日が初めてのことである。「無論、彼にとってはあまりに辛いことだったろう」とその心情を思い遣ったテルジッチ監督。それではロイスはそれを受け入れるしかないということなのか?

 「受け入れる、という表現は誤ったものだろう。練習や次の試合はむしろ、これは受け入れられるものではないと示すチャンスなのだ。ただ今この瞬間については、他の選手たちと同様にこのことをリスペクトはしなくてはならない。これもまたとても大切なことだよ」とテルジッチ監督は説く。「出場機会がなかったのは、何もマルコだけではない。たとえばマッツ(フメルス)をみてほしい」その視線の先には、深夜0時前にダフードらと共に本拠地シグナル・イドゥナ・パークで軽めの練習を行う副主将の姿があった。「それでも、今はそれが大事なことなんだ」

 この日のテルジッチ監督はチェルシーFCと対峙するにあたって、ジュード・ベリンガムを代理主将に立てて、守備的なサリフ・エズカンとCMFで並び、底の位置にはエムレ・ジャンを配置する中盤の布陣を形成。その理由は「立ち上がりから中央を、より安定化させていきたいと考えていたんだ」と述べており、実際にその思惑通りこのシステムは長時間うまく機能して、最終的にロイス投入を躊躇させるほどの効果をみせる。「今日は本当に変えにくい試合だった」とテルジッチ監督。「かなりマッチしていると感じていたので、いじくりたくはなかったんだ」と苦渋の決断であることを明かしながら、ロイスは「卓越した」「極めて重要な」「我々のキャプテン」であることも強調。新たなメンタリティが生まれたこのチームを率いる男の勇姿は、きっと次のセカンドレグで見せてくれるはずだ。

ベリンガム「ロイスとフメルスは模範」

 フメルス不在もあってロイスの代わりに主将を務めたベリンガムは、CBSスポーツに対して「マッツとマルコは、僕にとってまさに模範としている選手。彼らをみていると、どのように振る舞っていくべきなのかがわかる。本当に多くのことを学ばせてもらっているよ」と強調。改めてドルトムントのキャプテンを任されるということが、「僕のこれまでのキャリアの中で、最大の名誉だと思う」と語った。また決勝点の場面についてはアデイェミが「1人とだけ対峙していることに驚いた。そこでうまくボールをコントロールして力を発揮していた」と述べ、自信を漲らせる快速ストライカーを「一度乗せてしまうとまず止められない」と指摘。ただそれでもチェルシーは「まだ、まだ終わらない。必ず力強く戻ってくる」と危機感を募らせ、改めて「セカンドレグでは、全員がキャプテンであるべきなんだ」との考えを示している。

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