2023/05/28
独紙キッカー解説:ドルトムント、逆襲の終焉ではなく、真の逆襲の幕開け

©︎IMAGO/RHR-Foto
激流に揉まれながら何とか舵をとってきたエディン・テルジッチ監督だったが、しかしながら最後にボルシア・ドルトムントが行き着いた先は絶望の淵だった。自力優勝を手にして臨んだ今季最終節、11連勝を飾っていたホーム戦でまさかの痛み分け。11年ぶりのブンデス優勝は果たせず、逆にケルン戦で勝利したバイエルンはブンデス11連覇を成し遂げた。ドルトムントが陥った穴の深さがいかほどのものか。それは試合後に立ち尽くした選手たちの姿をみれば一目瞭然であろう。
数日前に契約を延長したマッツ・フメルスは、マインツのゴール前22メートルの位置でしばらく呆然と立ち尽くし、セバスチャン・ハーラーはピッチに座り込んで両手を顔の前で覆っていた。もしもあのPKを決めていれば、精巣がんを克服し、アウグスブルク戦で首位浮上へと押し上げた男が、この物語をうまく締めくくれたのかもしれない。そんな幻想は相手GKフィン・ダーメンの前に脆くも崩れ去り、ただそもそもこのPKどうこう以前にドルトムントの選手たちは膝もおぼつかない様子で、優勝がかかったプレッシャーにあたかも押しつぶされそうにさえ見受けられてしまった。
それでも脆弱な守備とミスの連発をみせ心身ともに動けなくなっていた選手たちを、ホームに詰めかけたファンたちが猛烈に後押し。なんとか後半で盛り返していくうちに、今度はバイエルンはケルンに追いつかれて1−1、これでドルトムントは再び首位浮上を果たしたのも束の間、試合終盤にはジャマル・ムシアラが個人技で打開しバイエルンが優勝弾。ドルトムントもゲレイロ、ズーレが得点を決めて追い縋るも、あと一歩のところで及ばず得失点差で2位という結果に終わってしまった。
確かに年明けから猛烈にみせていた逆襲劇をうまく完結させる、この絶好機を活かせなかった失意は理解できる。ただ別の見方をするならば、チームや監督ともにまだ次期尚早の段階にあったといえるのではないか。少なくともマインツ戦での戦いぶりでみせていたのは、そんなナーバスなもの。これまでもシーズンを通して善戦はみせていのかもしれないが、ただ違いを生み出すという点で、クレバーさや冷静さ、インテリジェンス、リカバリー力などが欠けてしまった。それはこれまでのドルトムントが持ち続けてきた課題といわれればそれまでかもしれないが・・・。
だがその解決にむけて、テルジッチ/ケール体制は歩みを進めていこうとしている。つまり更なるチームの強化、選手層に厚みをもたせ個人のクオリティを高める必要性で一致しているということ。無論それはタイトルに関わらず目指し続けるものだろうが、それでももし優勝していれば一息ついていた可能性は否めないのではないか。確かにこの失意から立ち直るのにしばらくは時間がかかるかもしれないが、それでもこの争いを演じてきた事実から目を背ける必要などない。ハッピーエンドではなくとも、夏もこのままこの半年間で得た教訓とモチベーションを活かし予定通りに前進していかなくてはならない。
それをしっかりと果たせたその暁にはきっと、来シーズンのブンデスリーガは再び最後までもつれこむエキサイティングな展開をみせることだろう。なにも再編成をめざすバイルンだけが相手とは限らない。だからこそドルトムントは自分たちに目を向けて取り組まなくてはならない。若い頃から身を粉にして働いてきたクラブを思い涙を浮かべた失意の指揮官を、ドルトムントの大観衆はいつものように温かく迎え入れた。そこに一瞬のためらいをみせた若き監督だったが、それでも力強く闘志と決意を胸に秘めたのだろう。歩みを進めるとそこから両拳を突き上げ、そして心臓をなでた。この両者がつながったこの一体感がきっと、真の逆襲劇の幕開けとなる。その日がくることを願って・・・。