2023/05/27
地域密着・育成型屈指の名将、シュトライヒが語るCL出場でも変えないチーム作りの「信念」

©︎IMAGO/Jan Huebner
2011年よりSCフライブルクで指揮をとるクリスチャン・シュトライヒ監督は、いうまでもなく現在ブンデスリーガ内において最長政権を誇っており、2位ウニオン・ベルリンのウアス・フィッシャー監督が5年であることを踏まえても、その特別さが際立つものだといえるだろう。加えてシュトライヒ監督は1995年にユースコーチとしてSCフライブルクに加入しており、同クラブ内における在籍指導期間は実に28年。特にドイツのなかでもその育成力が際立つフライブルクにおいて、ユースからトップまで全てを知り尽くし、クラブがもつアイデンティティとその体現という複雑なテーマも語れる、押しも押されもせぬ類稀な名将の1人だ。
例えばシュトライヒ監督はフライブルクの監督へとシーズン途中から就任したその翌年、いきなりブンデス5位でフィニッシュしてヨーロッパリーグ出場を達成。だがそこには地域密着・育成クラブの宿命である、若い主力選手たちの引き抜きとその大幅な穴埋めを強いられることとなり、加えて不慣れなヨーロッパリーグでの負担もあって14位。翌年には17位でブンデス2部降格を喫していくことになる。ここまではよくある話だ。
しかしそれでもフライブルクはシュトライヒ監督との歩みを止めることなく続投を決断。その結果でブンデス復帰、定着しながら紆余曲折の末にチームを作り上げていった結果、ついに昨シーズンとなってヨーロッパリーグ返り咲き。そして今回はそこから失墜することなく今シーズンもヨーロッパリーグ出場権を確保。チャンピオンズリーグへの可能性さえ残されている。しかもドイツ杯は準決勝まで進出、ヨーロッパリーグもグループリーグ突破という全てにおいて結果を残した。前回の教訓を活かした見事な修正能力というほかない。
まさに30年近く積み上げてきたシュトライヒ監督にしかできない集大成こそ、現在のこのSCフライブルクの姿であり、そしてそこには自軍のユースで育成した選手たちが11人も在籍していること自体まさに象徴的。いかにクラブが成功しようとも、「フライブルク流」から外れないことの重要性とその可能性の証であり、「何より重要なことは、クラブがもつアイデンティティなのだよ」とシュトライヒ監督。
無論クラブがユースへの信頼を絶えず持ち続けるということは、時として浮き沈みを生み出したり、また多少のミスにも目を瞑る忍耐強さがどうしても求められる部分がある。 「でもそもそもそれは当たり前のことじゃないか。むしろ自分たちが育てた選手が、ブンデスリーガの舞台でプレーしているということ。自分たちのコーチたちの手ほどきを受けての結果であること。それは私たちを大いに励ますものであり、大きな贈り物になるものなんだ。これこそが私たちのもつアイデンティティというもの。ユースチームが私たちの絶対的な生命線になる理由がそこにある」と指揮官。
フライブルクは財政的にも地域密着型の代表格であり、高額な投資に依存することもできないという部分もあるだろうが、「でもね、どこかのクラブでは、とんでもない予算をもちながらも、降格してしまったところもあるから」とも指摘しており、外部から多くの戦力補強を行うことはメリットと同時に多くのリスクも孕むことからも、つまりはフライブルクにとっての戦力補強の意味は、この生命線にいかに安定感をもたせていくかどうかにある。この夏もブレントフォード移籍が守護神マーク・フレッケンに取り沙汰されているところだが、代役をすでにクラブ側が自前の若手アトゥボルを公言。アイデンティティを共有した取り組みの現れだ。
いうまでもなく特に近年プレミアに代表するように、大型補強による変化はサッカー最大の醍醐味の1つ。ただ華々しさはなくともこのように、独自の伝統と信念を変わらず受け継ぐ職人(マイスター)技を楽しむのも、とかくブンデスリーガにおいて”マイスター”シャーレの行方を楽しむ、もう1つの方法である。「絶妙なラインでのバランスとり」がこのクラブにおけるスカウトの挑戦であり、「そのためには私たちコーチ陣が合理的でなくてはならない。決してアイデンティティを崩すようなことがないように」と強調。無論スタジアムが改築され、またここ数年の競技面における盛り上がりをみれば、否応なしにフライブルク周辺への期待感・プレッシャーは高まり続けていくことだろうが「でもそもそも来シーズンも同じような成功を収められるなんて、誰にもいえないことなんだから」とシュトライヒ監督は語った。