2023/05/21
独紙キッカー解説『ビッグシティ』プロジェクトの成れの果て、原点回帰に向けたヘルタの再出発

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2019年にヘルタ・ベルリンは「ドイツはもとより、国際サッカー界でも経験したことのない飛躍」を目指し、投資家ラース・ヴィンドホルスト氏と元ドイツ代表ユルゲン・クリンスマン氏を相談役に迎え、いわゆる『ビッグシティ』プロジェクトの幕開けを宣言していた。その結果はある意味でその言葉通りのものとなった。ブンデスリーガ史上個人投資として最高額の融資を受けながら、その3年後にはブンデスリーガ2部降格を喫してしまったのだから。しかも2年半で終焉を迎えたプロジェクトの果てに、いまやライセンス取得さえも危ぶまれており、仮に不測の事態に陥れば2部にとどまることさえ叶わないのだ。
事実その莫大な資金力、そしてドイツの首都として積極的な開発が進むベルリンを本拠地に構えるなど、伝統も兼ね備えたヘルタ・ベルリンはサッカー面のみならず、財政面でも戦略面でも魅力的な場所にあった。だがそれであってもいかにうまく連携をはかることができなければ、最終的にどのような結末を迎えるかを身をもって演じ切ってしまったのである。3億7400万ユーロというパッケージはどこに消えてしまったのか、降格を決定づけたボーフム戦でもそのプレーは考えなしで、軸というものが存在せずにまとまりにかけており、その不釣り合いなチーム構成、過剰な自信、周囲に流れ続けた絶え間ない雑音などが、指揮をとる監督たちを長年に渡り苦しめていくことになる。
ユルゲン・クリンスマン、カーステン・シュミット、フレディ・ボビッチらが誤った方向へと舵を取るなかで、振り返ればヘルタは2021年春はラバディア、翌年はダルダイ、そしてその翌年はマガトらが、土壇場でブンデス残留を果たしてきた。巨額の投資を行ったヴィンドホルスト氏は確かに支払いの遅延、スパイ疑惑など不用意に世間を騒がせたとはいえ、コロナ禍を生き抜いたのは彼の協力あってこそ。それを認めた上でゲーゲンバウアー元会長がまるで盗人猛々しいというように批判を浴びせるというのはいかがなものか。
結果的に1年前に同会長は選挙で思いもよらぬ形で敗戦を喫することになり、その結果選出されたのが元ウルトラのカイ・バーンスタイン新会長。そして半年後にはボビッチ氏の解任とともに『ビッグシティ』プロジェクトの終焉、同時に「ヘルタ流」への回帰を宣言しており、それでも2部降格を防ぐことはできなかったが、むしろ記録的な観客動員数はそのポテンシャルの高さを改めて示すもの。近い将来でその原点回帰を現実のものとするため、ヘルタ首脳陣はこれから身の丈にあった取り組みを続けていかなくてはならない。