2023/03/26
独誌kicker解説:トゥヘル監督招聘に動いたのではなく”動かざるえなかった”首脳陣

©︎imago images
バイエルンの首脳陣たちは切々と、いかにバイエルンが苦境に立たされてもユリアン・ナーゲルスマン監督について、クラブから全面的に支持を受けていること、あくまで長期的視点に基づくプロジェクトであることを説いてきた。それはわずか数日前に首位陥落を喫した直後でも変わることはなかったのだが、しかしながらそれが一気に変わってしまったらしい。いやそうではなく疑問が確信へと強まっていったということだろう。就任以来バイエルンでは特に発展性もみられず、決して良い展開にあるとは言えなかったのだから。
しかもそれは何もいまに始まったことではない。昨シーズンの後半戦においても混乱に陥っており、いまから13ヶ月前に最初に警鐘を鳴らしたのはロベルト・レヴァンドフスキだった。しかしその声にあまり耳を傾けようとせずレヴァンドフスキは昨夏にバルサへと移籍。代わりにはCFではないサディオ・マネを獲得し「攻撃陣への可変性」に喜びをみせた指揮官ではあったが、しかしながら冬から再び失速。年明けからの成績はブンデスリーガ4番目で再び首位陥落を喫する事態に。それでも敢えて首脳陣がナーゲルスマン監督への期待を強調した背景には、移籍金として2000万ユーロ(成果次第で2500万ユーロ)と1000万ユーロという年俸(5年契約)が脳裏から離れなかったのだろう。
ただもはや金額どうこうといってられない、背に腹はかえられぬ状況に陥ってしまったということ。解任にあたりバイエルンではあらためてその理由を、競技面における問題や、それに伴う成績不振、そしてロッカールームにおける不和などを挙げており、サリハミジッチ氏は「うまく噛み合わなかった」という言葉を何度も使っていた。そこには大きな悔しさもあることは想像に難くない。なぜならば前述の巨額を投じ、そしてへーネス/ルメニゲ体制後に初めて下した同氏による大きな決断こそ、ナーゲルスマン監督の招聘だったのだから。今回の責任を主に負うことになるのは、サリハミジッチ氏にほかならない。
確かに「うまく噛み合わなかった」という言葉には後の祭り感もあるが、そもそも首脳陣がその問題を軽んじていた部分も否めないのではないか。なにせ33歳の青年指揮官にはまだビッグクラブでの監督経験はなく、未熟な部分が露呈されることはあらかじめ予想できたこと。結局露呈することになる節度面の問題やコミュニケーションといった部分こそむしろ、繰り返し強調されてきた”クラブ首脳陣からのサポート”が求められるものでもあり、加えて今回解任理由としてあげた問題点は何も最近になってでてきたものでもなかった。ただ動きに出たのはそれだけ追い込まれていたから。そしてトゥヘル監督は他クラブからの関心が寄せられていたからだ。
いずれにしても5年越しのラブコールが実現したトゥヘル監督は、ナーゲルスマン監督に比べるとビッグクラブでの経験をもち、パリ・サンジェルマンでは国内のみならずCL決勝にも進出、チェルシーではシーズン終盤から就任して立て直しCL優勝へと導いた手腕も発揮してきた。それだけではない。土曜日の就任会見の席においてもトゥヘル監督は、今のバイエルンが求めているような自信に満ち溢れ、明白で、熱意に溢れ、高いプロ意識をもつ姿もまたあらためて披露されていた。