2023/07/30
独紙キッカー解説:バイエルンとマネ、翻弄と誤解の1年に間も無く終止符

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土曜日に行われた川崎フロンターレとのテストマッチで、最も話題となったのはむしろピッチにいなかった選手、バイエルン・ミュンヘンのサディオ・マネであった。メンバーから外れた理由はわずか1年でクラブを後にする予兆であり、すでに首脳陣から移籍にゴーサインが出されているセネガル代表FWの姿はスタッフの右端、交代ベンチの一番端という、まるでクラブ内における自身の立ち位置を象徴するかのよう。私服にキャップの出たちで時に東京の観客、時にピッチや携帯に目を向けながら、孤立した雰囲気を醸し出していた。
誇り高きアフリカ年間最優秀選手は、できることならばバイエルンで2年目の挑戦に臨みたかった。本来の力がこんなものではないことを示したかったが、しかし昨季末にみせたリロイ・サネへの暴行事件も相まって、自らその道を狭きものへと閉ざしてしまう結果に。キッカーが得た情報によればどうやら、バイエルン首脳陣からはだいぶ前から、マネに対して構想から外れている旨が伝えられていたという。つまりはもはやマネには、選択肢は残されていなかったということ。新天地を模索しようにも欧州内での受け入れ先となるとかなり限定的だ、その点でこの夏を席巻するサウジアラビア、関心をよせるアル・ナスルはマネの加入を諸手を挙げて歓迎するだろう。すでに両者の話し合いは継続され、かなりの進展もみせているようだ。
そのため本日バイエルンが飛び立ったシンガポールではなく、マネは中東の地へと向かうことになるかもしれない。そしてそれは1年間続いた両者の誤解の終幕を意味するものとなるだろう。当時ナーゲルスマン監督やサリハミジッチ競技部門取締役を批判していたレヴァンドフスキを、敢えて移籍させて批判者の口減しを行い、そしてクラブ内でも挙がっていた批判を鎮めるため何としてもビッグネームを迎えたかったサリハミジッチ氏は、そこで代理人が接触してきたサディオ・マネの獲得を理想的な解決策をみて実行に移した。
無論サッカーを知る者であればマネが、決してセンターフォワードとしてレヴァンドフスキの穴埋め役には適さないことは明らかであり、しかもマネの本職であるウィングはバイエルンでも最激戦区の1つであることもまた明白だった。そんな中で長年過ごしたリヴァプールから新しい国、新しいクラブに渡ったマネは、そこで不必要なレヴァンドフスキの影と不均衡なチームバランスの狭間に揺られながら、ポジションの不安定さと怪我の問題にも苦しみパフォーマンスは不安定の一途をたどっていく。特にアフリカ最優秀選手として参加するはずだった、今冬のワールドカップに負傷のため出場できなかった事も、心身ともに勢いに乗り切れない要因となった。
加えてバイエルン自体もノイアーの負傷離脱やGKコーチ解任問題、去就に揺れたナーゲルスマン監督が春先に受けた解任劇、そしてトゥヘル監督の電撃就任と激動の最中に置かれ、ただその中でもマネは懸命にバイエルンでのチャンスをつかもうともがき、苦しみ、そしてあってはならない行動で自らの首をも締めてしまった。おそらく昨年夏に結んだ、期待値の高さから手にした高額のサラリーも、クラブ側にとっては重荷でしかなくなっていたことも立場を苦しめたことだろう。
ブンデス逆転優勝をかけた最終節にトゥヘル監督は、どうしても点が欲しい場面でマネではなく、なんと18歳マティス・テルを起用。この瞬間マネのバイエルンでの戦いは終わりを告げ、そしてこれからは欧州の舞台から離れ中東アル・ナスルに移籍することになるだろう。逆にバイエルンは1年前に支払った移籍金(3200万ユーロ)の大半と高額サラリーのスペースを確保し、1年前の過ちを正してこれから本来求めるべきトッププレーヤー(ハリー・ケイン?)の獲得へと歩みを進めていくことになる。