2024/01/19

独紙キッカー:40歳を迎えた長谷部誠に贈る言葉

©︎IMAGO/ActionPictures

 木曜日に40歳の誕生日を迎えた、長谷部誠。だが今から10年も前のこと、現在所属するアイントラハト・フランクフルトのヘリベルト・ブルーフハーゲン取締役は、あとどれだけまだプレーできるか不安を抱きつつ当時30歳のMFを迎え入れていた。『今日のブンデスリーガ』は特別編として、ドイツNo1サッカー専門誌キッカーより日本のレジェンドへのバースデーメッセージを全翻訳で紹介する。

 サッカーの世界では記憶に残る名シーンが、良い意味でも悪い意味でも、極端な形として存在するものだ。たとえばそれはタイトル獲得や快勝というものであり、逆に2部降格や大敗といったものにまで及ぶ。当然これまで中井歴史を誇るアイントラハト・フランクフルトにおいてもその限りではなく、その一例として2022年10月に開催されたチャンピオンズリーグでの戦いが挙げられるだろう。

 確かにそれは単なるグループステージの1試合に過ぎない。それでも大袈裟に転倒した15歳年下のリシャルリソンに2・3の言葉を言い放ち、また10歳年下のハリー・ケインには守備の要として押さえ込みに成功。最終的には互いにノーゴールの痛み分けにもつれこませ、フランクフルトを超え世界のサッカーファンたちを熱狂させたのだ。

ヒュッターもグラスナーも長谷部抜きを目指した

 その時に指揮をとっていたオリヴァー・グラスナー監督は、前任者であるアディ・ヒュッター監督と全く同じ形で、自らの判断ミスを思い知らされることになる。両監督とも開幕からしばらくは、長谷部誠抜きでシーズンを戦っていく決断を下すもののそれは決して得策などではなく、例えば2020年12月にヒュッター監督は「長谷部抜きでも戦えるようにしないといけない」と要求。長谷部の時代にももう終焉が来ていることを示唆したものであり「彼は37歳なんだ。選手としてのキャリアはこの夏におそらく終わりを迎えるだろう」と予見していたが、しかし現実は余りに異なるものであることは周知の通り。

 40歳を迎えた今をもってしても、長谷部誠がこの夏に現役生活にピリオドを打つかどうか、本人以外誰も知るよしもない。というのもクレーシェ競技部門取締役は「誠は契約の更新を、自らの判断で決めることができる唯一の選手」であることを明かしており、最大級の評価の証として白紙の委任状が与えられ、またクラブのアンバサダーとしての契約はだいぶ以前からすでに締結済みとなっている。

30歳の長谷部に「歳をとりすぎてないか?」

 ただ10年前にフランクフルトとの交渉の席についていた長谷部誠に対して、当時のクラブ首脳陣が抱いていた感情は多少異なるものであった。当時のヘリベルト・ブルーフハーゲン取締役は、そのときについて「まずヒュブナーSDと共に我々は、長谷部誠がもつ選手としてのクオリティに何ら疑問ももっていなかった」とキッカーに対してコメント。

 だが30歳を迎え、ニュルンベルクで2部降格を喫し、その過程の中で膝に重傷を負ったために後半戦ほぼ全試合を欠場した背景から、「我々はずいぶんと考えたんだよ。彼は既に年齢を重ねすぎていやしないかとね。だって1年前にヴォルフスブルクは彼を手放しているんだ。ならば今もその状況に変わりはないだろう。果たしてこのチームにとって正しい解決策なのだろうか?」と説明。

長谷部を後押ししていった指揮官たちの存在

ただその移籍を後押ししたのが他ならぬ、ギド・ブッフヴァルト氏からの推薦を受けて浦和レッズよりヴォルフスブルクに迎え入れていた、フェリックス・マガト氏であった。「私はフェリックスとは良い友達でね。当時彼はチームスピリットという点において、長谷部誠がどれほど重要であるかを私に説いてくれたんだよ。彼は本当に彼のことを非常に高く評価していたね」事実として長谷部誠はそのマガト監督の下、バイエルンでもドルトムントでもない、稀有なブンデスリーガ優勝戦士の1人としてタイトル獲得に貢献している。

 もう1つ、長谷部の選手寿命を伸ばした要因は、彼の類まれなる適応能力を挙げることができるだろう。「彼はおよそ3年ごとに、1つずつポジションを下げていったんだ。もともとフランクフルトではセントラル・ミッドフィルダーを予定していたもののその後は、フェー監督の下でボランチに下がった」とブルーフハーゲン氏。さらにニコ・コヴァチ監督の下ではディフェンスラインにその居場所を見出すことに。そのことが彼のキャリアを最高レベルにまで引き上げ、そして今日まで継続させる要因となった。

リベロとしての開眼:卓越したビルドアップ

 そのゲーム・インテリジェンス、読みのうまさ、一流のテクニックにより、長谷部誠はとりわけビルドアップという点において最適なプレーヤーであり、常に頭の中で1つ先を見越す能力をもっているため、年齢を重ねてのスピードの低下はうまく補完。対人戦では決して体格は恵まれてはいないものの、それでも相手にとって厄介な存在であることは前述の世界を代表するストライカー 、ハリー・ケインが自ら体感したものだ。

模範的な姿勢に賛辞の嵐

 ただ40歳という大きな節目を迎える今シーズン、ついにフランクフルトは長谷部誠なしでも戦える布陣を揃えることになる。元ドイツ代表ロビン・コッホと、ウリィアム・パチョの加入によってこれまで公式戦での出場は、わずか9試合のみにとどまっているところだ。ただそれでもなお、長谷部誠はこれからもまだまだ、そのキャリアが継続するかのように前向きにサッカーと向かい続けている。彼ほどの信念をもった取り組みができる選手がどれほどいるだろう。コーチらから受けたその模範的姿勢への賛辞は、それだけで分厚い本を出版できるほどにも及ぶ。

マクドナルドでサラダを注文

 エピソードにも困ることはない。例えばヴォルフスブルク時代に、アウェイ戦からの帰りにチームの同僚らがマクドナルドに立ち寄ると、長谷部誠がオレンジジュースとサラダしか注文しなかった話は有名だ。「しれにバスでの長い移動の道中、多くの選手たちはヘッドフォンを着用したりIpadをいじくったりしていたのだが、長谷部だけは常に本を読んでいた。そんなことは滅多にみられるものではない」とブルーフハーゲン氏。

通算5人目:オーバー40でのブンデスリーガー

 その結果として長谷部誠は浦和レッズでのタイトル獲得や日本代表としてW杯3度出場、そしてブンデスでは通算379試合に出場しリーグ優勝、ドイツ杯優勝、さらにはヨーロッパリーグ優勝も達成。そしてこれからブンデスリーガのピッチに立てば、クラウス・フィヒテル、クラウディオ・ピサーロ、ミロスラフ・ヴォタヴァ、マンフレッド・ブルクミュラーに続く、史上5人目の40歳以上でピッチにたったフィールドプレーヤーの仲間入りを果たす。

日本から来たレジェンドが刻む次の歴史は?

 しかもフランクフルト在籍通算300試合出場(公式戦)というオマケつきだ。そんな記念日に自らバースデーゴールというのは、フランクフルトが誇るレジェンドにとって決して悪いアイデアではないだろう。これまで在籍通算で決めてきた2得点目はいずれも勝利につなげる貴重なゴールであり、ダルムシュタットが次の餌食となる可能性もある。

 ただそんな夢をひとまずは胸の中にしまいこみ、今日という日は何よりもこの言葉を贈りたい。

『ハッピーバースデー、ハセ!』

アイントラハト・フランクフルト アイントラハト・フランクフルトの最新ニュース