2024/03/15

大鉈を振るう若き指揮官:期待感より不安感募る、ユーロ直前のドイツ代表

©︎kicker

 サッカー強豪国としての威信をかけ臨む、自国開催のユーロを3ヶ月前に控え、ユリアン・ナーゲルスマン代表監督は前回の代表メンバーから、実に12人もの入れ替えを行う決断を下した。これは本番前最後の代表戦期間としては異例のことであり。そのうち6選手に至っては代表初招集。まさに『大鉈を振るう』采配と呼ぶことができるだろう。それを後押しさせた理由とは、いったい?「重要な事は、勢いだ」とナーゲルスマン監督はコメント。これはシュツットガルトからの4選手の選出を指しており、「1年前は誰もいなかったが、今ならさらに何人かこれより多くてもおかしくはない」と強調する。

 その点でいえば確かにボルシア・ドルトムントからズーレやフンメルス、そしてバイエルンのゴレツカなど、現時点では浮き沈みのある選手たちについて選外としたことは理解できる。またゴレツカやズーレに関しては、バックアップとしての招聘に分類していないことも改めて明確にした。ただ本当にシュツットガルトのミッテルシュテートやアントンとウンダフ、ハイデンハイムのベステがそれほどの説得力を持ち合わせていると言い切れるだろうか?少なくともトップレベルの舞台で力を証明したことがある初招集の選手は、バイエルンの若手パブロヴィッチだけであり、それもごく最近の話だ。

 このことからいかに賭けに出た判断であるかが理解できると同時に、いかにドイツ代表における問題が大きいかについてもまた、理解できるともいえる。つまり就任半年が経過した今なお、元バイエルンの指揮官はチームにおいて自身の成果を何1つ積み上げられていないということ。実際にナーゲルスマン監督がこれまでにみせてきた事は、あくまでフリック元代表監督の遺産をいかに生かしていくかに重きが置かれており、今回の『大鉈を振るう』勇気ある判断とは真逆のことを続けていたのである。つまりナーゲルスマン監督は、自国開催のユーロを直前に控えた今回の代表戦という。まさに土壇場においてこれまでの実験終了を宣告したようなものだ。

 事実としてそれに先駆けてユーロに向けた代表キットの発表も行われたにも関わらず、今回のナーゲルスマン監督の会見の雰囲気からは、まったくもって楽観的な雰囲気など見受けることなどできない。これまでクラブの監督しか務めたことにない若き指揮官は、この日の会見で改めていかに日常的にトレーニングを指導できないことで、自分からの影響を与えることができないかを何度も強調していた。果たしてこれらのメッセージはこれほどの大会の3ヶ月前に控え、外部に指揮官が口にする言葉として望ましいものであるか、大いに疑問が残る。

©︎IMAGO/Schüler

ナーゲルスマン監督の一問一答

…ノイアー復帰、主将は?:「ギュンドアンは務める。彼はこの腕章を誇りをもって巻いている。ただリーダーとしての責務は複数に分けるべきとの認識も持ち合わせているよ。長年にわたり主将を務めてきたノイアーもまた、同じ考えだ。そのことに疑いの余地などない。むしろこのテーマはチーム全体で考えていくべきだと思う。チームとして何か問題があったときに監督以外にも、相談できるリーダーが存在しているという感覚をもてるということ。それは何もギュンドアン1人が担う問題ではない」

…ノイアー復帰、先発GKは?:「ノイアーとテル=シュテーゲンと共に話し合う。事前の予想は特にしていないし、この会話にはGKコーチも加わることになる。当然、私よりも精通しているしね。それからゲームプランを構築していくことになる」

…フンメルスは選外:「現時点でドルトムントでそこまで良い流れにあるとはいえないし、今回の我々は当初のアプローチとは異なるプロセス、アプローチを意識してチーム作りを行なっている。つまりCB自体が1人減っており、2人の選手(リュディガーとター)がそこに控え、監督の目からはここにバックアップを役割を果たしてくれる選手を見出すことになる。そのためにフンメルスらが理想的とはいえないし、それよりも適切な人材を2人招聘した。

…久々の代表復帰のコッホと初招集のアントン:「コッホは海外で揉まれて内面的に一回り成長しており、積極的にコミュニケーションをはかる、ブンデスのなかで対人戦で強みをもつ選手の1人だよ。求める役割をきっと果たし、チームと共に全力で前進していってくれるはずだ。その成長の証こそ今回の招集であり守備陣ではフレッシュな空気を入れるより壁を構築していきたいと思う。アントンも非常に安定感のあるディフェンダーであり、攻撃への推進力にもいいものがあるが、積極的に守備に見を投じるタイプ。これまでのキャリアからも、今回の役割にマッチした選手といえるだろう。先発できない時があっても雰囲気を壊すことなく謙虚な気持ちを持ち合わせ、そこにいることを前向きに捉えられる選手だ」

…セルビア代表の資格もあるパブロヴィッチ:「ドイツ代表が他国でも出場資格のある選手にも目を向けることは、何もおかしなことではないだろう。選手たちにどの国でプレーすべきと支持することが我々の役割ではない。仮にドイツサッカー連盟からその役割をするようにいわれれば、私はそれを拒否する。これは非常に個人的な問題であり、パブロヴィッチは決して政治的理由でここにいるのではない。私は彼にあえて説得するような必要はなかった。ここに彼がいるのは、単純に良いパフォーマンスをみせているから。非常に優れた成果を残しており、バイエルンで非常に支配的な安定した姿が見受けられる。ただ実際にユーロに参加すべきかについては、これから見極めていきたい。」

…ゴレツカの選外:「彼の不在とパブロヴィッチの選出に因果関係はない。レオンはここ数試合でずっと安定していたし、ただそれでも我々としては求める役割に適した人材を見出すことが先決となる。その点で我々は彼は2選手(アンドリヒとグロース)の後塵を拝しているとみており、ただそれでも他の選手と同様に、何も扉が完全に閉ざされているというわけではない。これからも良いパフォーマンスをみせ、そして役割によっては可能性はあるだろう。当然、彼自身は失望を抱いているし、決して楽しい話などではない。だがそれでも最終的に私は判断を下さなくてはならないのだ」

©︎IMAGO/eu-images

各選手・関係者のコメント

マキシミリアン・バイアー(FW:ホッフェンハイム)「まさに夢が叶ったということであり、待ちきれない気持ちだよ。日曜に代表監督から連絡をもらったときには、ちょっと緊張したね。以前にお会いした時に電話番号を登録していたものだから、その名前が出たときににはもうドキドキしはじめて・・・。会話のなかでは緊張して余り気の利いたことはいえず、ただ「ありがとうございます。とても幸せです」くらいしか言えなかったよ」

セバスチャン・ヘーネス(監督:シュツットガルト)「代表チームに4人を輩出したといことは、素晴らしいことだ。これは我々全員にとって、今シーズンの成果を再確認する機会でもあるよ。ナーゲルスマン監督はさらに、シュティラーについても注視していることを明かしてくれた。ヴァグノマンについては彼には、欧州のトッププレーヤーを守れる資質を兼ね備えた選手ということだよ」

アレクサンデル・パブロヴィッチ(MF:バイエルン)「僕自身の本来の計画では、この夏のユーロが過ぎてからドイツ、もしくはセルビア代表入りを決断しようと思っていた。でも今回は不意にいままさに決断を迫られることになり、最終的に決してセルビアに問題を感じていたというわけではないのだけど、ドイツ代表を選択することにした。とても熱心に声がけしてくれたセルビア代表の皆さんに心から感謝の気持ちをお伝えしたい。今はワクワク感でいっぱいだよ。母はドイツ人で父がセルビア人。生まれはミュンヘンで、キャリアの全てをバイエルンで過ごしてきた。これからのドイツ代表戦をとても楽しみにしている」

ヤン=ニクラス・ベステ(MF:ハイデンハイム)「僕自身にとっても予想だにしなかったことだ。それは何度も実際に口にしてきたことだよ。だって2部でプレーしていたころから、まだ1年もたっていないのだし。これはまさに僕だけでなく、全てのサッカーをする人々が1度は夢見るストーリーといえるのかもしれない。それが今、僕自身が経験できていることなんだ」

ホルガー・ザンヴァルト(代表:ハイデンハイム)「この指名から非常に大きな誇りを感じている。ベステは入団からこの1年半で素晴らしい成長を遂げており、絶対的なトップパフォーマーへと成長した。我々ハイデンハイムファミリー全体として大変に嬉しくおもっているし。もちろんクラブとして初のドイツ代表選手を輩出できたことは大きな喜びだよ」

©︎IMAGO/Sven Simon

ドイツ代表 ドイツ代表の最新ニュース