2024/03/24

新生ドイツがフランス撃破!ヴィルツが電光石火で歴史的得点、クロースは中盤を「完璧に」支配

©︎imago images

 ドイツ代表は自国開催となるユーロイヤーの最初のテストマッチであり、そして大会前の最後の代表戦期間の幕開けを、これ以上ない形でスタートを切ることに成功した。ドイツの将来を担う逸材として期待されるフロリアン・ヴィルツが、W杯2大会連続ファイナリストを相手に開始8秒で先制弾。キックオフからクロースが数歩動くと、中央に十分なスペースを確保し、そのボールにフロリアン・ヴィルツが反応し、20メートルほどの距離からゴール左上に突き刺す見事なゴールを決めた。これによって、ヴィルツは代表初得点を挙げただけでなく、2019年のエクアドル戦でルーカス・ポドルスキが記録した9秒のゴールを上回り、新たな代表記録を樹立した。

 「あれは狙ってたんだよ。セットプレーのコーチには、いろいろ策を練るのに十分な時間があったんだ」とクロースはニヤリと笑ったが、その言葉には実は裏がある。マッズ・ブットゲライトコーチによって「念入りに考え抜かれたバリエーションを、選手たちが見事に形にし、あの見事なまでのゴールが生まれたのさ」と、ナーゲルスマン監督もしてやったりな表情を浮かべた。「あれは9月のフランス戦の得点にも似た形だったよね」ちなみに世界最短得点記録は、直前にオーストリア代表のクリストフ・バウムガルトナーが、電光石火の独壇場でわずか6秒で得点。2018年W杯で樹立されたクリスチャン・ベンテケ(ベルギー代表)の8.1秒を上回り、その記録保持者となった。

©︎Getty Images

ドイツ代表の中盤を完璧に支配したクロース

 またほぼ1000日ぶりに代表戦を終えたクロースは、フランスを相手にタッチ数143回、パス成功率95%、対人戦勝率75%を記録するなど、ヴィルツへのアシストのみならず中盤の主役として君臨。完璧にゲームプランを果たしてみせた司令塔だが、チームの見事な勝利への自身の貢献について問われても「僕はない。いろいろ変化した事で、僕の部分は些細なところ。今回の変化はすぐに効果が確認できるようなものでもあったし、何より今回勝利できれば大きいねとミッテルシュテートと話していたから。それができて本当に素晴らしいし、良い準備ができているね」と控えめにコメント。

ただナーゲルスマン監督も脱帽する他なく、「信じられないほどの素晴らしさ!リズムを生み出し、見事なまでにハードワークに勤しみ、そして他の選手たちに非常に安心感をもたらしていた。本当に守備が安定しており、何よりも印象的なのは彼ほどの成功者がおごることなくチームに溶け込んでいること。それもあまりにも自然に」と惜しみない賛辞を送っている。「電話の最初から自分は救世主などではないといってくれたのも好印象だったね。彼はレアルで長年果たしてきた攻守の繋ぎ役と守備面での貢献部分で、チームに必要な要素をもたらしてくれる、まさに安心感を与える存在で常にボールはトニに託されているよ」。

©︎imago images

今回ナーゲルスマン監督が示した、目に見えて明確な采配

 今回のフランス代表戦に向けてユリアン・ナーゲルスマン監督は、直前の代表戦時期にも関わらず12人もの選手を入れ替える大鉈を振るうことを選択。ほぼ全てのポジションにおいて選手の入れ替えが行われたが、ただそれは『現在の調子』と『守備を好んで行う』「自らの役割を認識する」選手たちという、明確な招集方針をもっての結果であった。例えば前回のオーストリア代表戦から7人も入れ替えた先発メンバーをみても、開幕以来無敗続くレバークーゼンのターが守備の要リュディガーとCBコンビを形成。同じくブンデスで今季席巻中のシュツットガルトから左SBに、ナーゲルスマン監督が世界に通用する逸材を期待するミッテルシュテートが起用。守備面が改善したクロースと中盤を形成したのは、守備的選手でこちらもレバークーゼンからアンドリヒであり、守備的プレーヤーとしての「ダーティワーク、それだけではないがね」と指揮官。

 ヴィルツと共に先発したムシアラについてもブンデス直近で9得点に直接関与した絶好調ぶりで、フュルクルクを抑えて先発出場し結果を残したハヴェルツも、キャリア初の4試合連続など年明けより飛躍をみせているところ。「ハヴェルツはゴールを背にしたプレーも、キープ力という点でも非常にうまく対応できており、また最近アーセナルでは決定力もみせている。しかも中央でプレーし、深い位置に仕掛けていける走力は、逆にスコットランドやハンガリー、スイスといったチームを相手にした時に重要となってくる要素だ」と説明。これに代表13試合で10得点中の大型FWフュルクルク、ブンデスで絶好調のウンダフがそれぞれオプションとして加わっているという事。つまりナーゲルスマン監督の考えはクロースの指摘する通り、これまでの代表戦とは異な前述のようにり戦術的な部分はもとより選手起用という点でも、非常に明確に示されている。

©️kicker

 事実として代表選出最大派閥がシュツットガルトの4人、この試合での先発の最大派閥がレバークーゼンの3人であったことでも確認できるだろう。負傷離脱となったがバイエルンのパブロヴィッチも最近調子が良い守備的なボランチタイプの選手であり、ベステはドイツ代表にとってのアキレス腱であるセットプレーで今季14得点に昇格組のクラブで直接関与した「特筆すべき」(ナーゲルスマン監督)選手だ。加えてドイツ代表の選手層の薄い左SBでも起用可能な点も評価できる。GKでも今回先発予定だったノイアー(内転筋負傷で離脱も今年キッカー採点3.5以下はなし)、その代役を務めフランス代表戦で無失点としたテル=シュテーゲン、参加選手中最高のセーブ率を誇るレノと共に2024年に入って安定したパフォーマンスをみせるGKたちである。

 逆に選外となったゴレツカなど常連組は好不調の波が激しく、またニャブリやサネのように負傷明けや出場停止などの問題があった選手もいる。CBでアントンが選出された理由について、現在の状態とともにバックアップとしての役割の受け入れの姿勢もナーゲルスマン監督は明かしていた。では大いに注目されたGKに関しては、テル=シュテーゲンとノイアーが同時選出となっているのだろう?このことについても指揮官は、「テル=シュテーゲンと話し合いをして、彼はうまく受け入れたという印象を受けた。当然だが失望し、悲しんでいた。驚いたかはわからないが別の言葉を期待していたことだろう。もちろん私としても本当に苦しい会話だったよ。本来ならば彼はプレーに値する選手なのだから」と説明。

©︎imago images

総評

 このように今回の快勝劇の裏では、時に断腸の思いでの決断もありながら、悔しさをバネに変えられた選手(テル=シュテーゲン)、好調の波にのり積極的に守備に勤しみ戦術を支え続けた選手(エムバペ抑えたキミヒ、レバークーゼン組等)、フレッシュさと勢いをもたらした選手(ハヴェルツ、ムシアラ、ヴィルツ)が、経験とリーダーシップを兼ね備えた主軸(リュディガー、クロース、ギュンドアン)を中心として織りなされた、見事なハーモニーの初舞台であったという事だ。無論、これで一躍ユーロの優勝候補の一役をになえるというほどのインパクトまでもつものではない。ただそれでもドイツ代表チームはこれから迎える宿敵オランダとのテストマッチを前にして、ドイツ国民8000万人に向けた1つの強烈なシグナルを送ることに成功したとは評価することができるだろう。

ドイツ代表 ドイツ代表の最新ニュース