2024/02/19

浅野弾で再露呈した王者バイエルンの『不良債権化』の爪痕、苛立つキミヒはACと衝突

©︎IMAGO/Nordphoto

 バイエルン・ミュンヘンによる公式戦3連敗の後、カメラに向かって話していたのはトーマス・トゥヘル監督ではなく、そしてトーマス・ミュラーでもなく、レオン・ゴレツカであった。長くドイツ王者の一員としてあり続けたドイツ代表MFにとって、今回の敗戦の意味は痛いほど理解しており、「ただ試合の入りについては、僕たちはまた立ちおなって良い所をみせていたと思うんだ」と強調。「でもそこから残念な事が起こってしまって」というように数的不利に陥った敗戦ということもあって、「そこまで責めることもできないと思う。その中で僕らはできる限りの事を尽くして、実際にゴールも決めていたのだから」と言葉を続けている。「でも今は、エンドレスのホラー映画でも見てるような気分さ」と、2015年5月以来の公式戦3連敗を語ったゴレツカ。「今は何もかも、全てが僕たちに不利に働いているようにさえ感じる。」しかし結局は実際に失点の場面に目を向けてみると、結果的には「自分たちのミス」というところに辿り着いてしまうのだ。

©︎IMAGO/Laci Perenyi

ウパメカノ、バイエルン史上初の2試合連続退場

 「特に(浅野拓磨が決めた)1−1とされた場面は、絵に描いたようなやられ方をしてしまったよ。だってボーフムが狙ってるのは、まさにあれだってわかりきっていたのだから。その対策もちゃんと講じていたんだけど、でもあの時に関してはそれができていなかったんだよ。」と、ムシアラのロストとキミヒが対人戦で敗れたシーンを振り返ったゴレツカ。さらにコーナーキックからの失点では相手DFシュロッターベックを自由にさせてしまい、ダメ押し点となったPKは僅か数日前に退場、そしてPK献上による決勝点を2度も”お膳立て”してしまった、ダヨ・ウパメカノによるものだった。確かにその試合後には一部ファンから人種差別的侮辱を受けて心を傷つけ、それでも巻き返しを誓っていたフランス代表を、トゥヘル監督は熱心な姿勢やクオリティなど高く評価しつつ、今回の試合は大事をとってベンチに。しかしマズラウイの負傷交代から急遽投入される事態に発展となり、結果「余りに衝動的すぎた」プレーで再び退場。ちなみに2試合連続での退場処分により、クラブ史上初となる歴史まで残してしまった。

©︎picture alliance/dpa

対策を講じ「明らかに勝てる試合」でも敗れるトゥヘル監督

 このように対策を講じても不慮の問題や個人のミスから失点を重ね、そしてビッグチャンスを如何に多く手にしていた(ゴール期待値3.4 (xG))としても、それでもなおチームは勝利できない。帰りの便の都合で会見の出席を見合わせたトゥヘル監督は、その後に「仮にまったく同じ試合が再び展開されたとしたら、その時は我々の方が勝利できた可能性が非常に高い。つまり今回の敗戦について、どういう評価をしていくのか。そこが重要になるよ。アプローチ自体については問題ではなかったのだ。ただ今日は余りにも残念な試合となってしまった」と総括。あくまでレバークーゼンやラツィオでの敗戦とは比較にならないとみており、「余りに展開が不利すぎた。4〜6点は取れるチャンスがあったのに、気づけばリードされていたんだよ。それでも最後まで劣勢になっても諦めず信じて戦い続けていた。(勝ち点差8で)リーグ優勝を現実的とはいえないが、昨年も最後まで我々諦めずに結果として報われた」と前を向いた。「とにかく軌道を修正する事だ」 

©︎IMAGO

「軌道修正」を図れないトゥヘル監督、その要因は?

 逆にいえばブレーメン戦や今回のボーフム戦も含め、一体なぜ今年のバイエルンはここまで、安易に失点を重ねていってしまうのだろう?得点機会の多さや失点の多さといったスタッツからもそれは如実は現れており、そして負のスパイラルはいまだ止まるところを知らない。幸先よくリードを奪い相手を圧倒していたにも関わらず、それでも安易な失点と不用意なミスは今回も顔を出し、また数的不利となってからまた突如として王者の戦いをみせるという、これほど大きなムラを露呈していることを、選手1人1人がそれぞれに責任をもち自問自答しなくてはならない。なぜ試合を通じてその気持ちを保ち続けられないのか。なぜ昨年4月に就任して以来、トゥヘル監督はいまだその「軌道修正」を図れていないのか。この夏にはバイエルンでは大きな変化が求められるだろう、そこに果たしてその大仕事に今はドレーセンCEOからの支持を受けているとはいえ、本当にトゥヘル監督の姿はあるのだろうか?

©︎Getty Images

不振と前任者の負の遺産で『不良債権化』の一途

 そもそも昨夏にトゥヘル監督はチーム強化を訴えながら、それでも思うように進まなかったのには理由がある。欧州クラブ内で3番目の高給とりとなったバイエルンでは、例えばニャブリ(2026年まで)、キミヒ(2025年まで)、ゴレツカ(2026年まで)、デ・リフト(2027年まで)、サネ(28)らは恐らく1700万ユーロは受け取っていると見られており、圧迫された給与体系の中での選手補強は決して容易なものではなく、逆にまずは売却しようにも欧州内での屈指のサラリーを手にし満足なシーズンを過ごせていない選手たちの受け取り先を見つけることは困難。つまりはサリハミジッチ元SDらが不用意にエルナンデス獲得(移籍金8000万ユーロ、年俸2400万ユーロ)で破壊した給与体系が、その後の主力延長でのサラリー高騰化を招き、更に首脳陣はこれら選手の起用のため居場所を確保。その結果アラバを失った挙句、それら選手たちはサラリーに見合ったプレーを見せなくなってしまった。

©︎IMAGO/Moritz Müller

苛立つキミヒ、試合後にレーヴACと衝突

ただ今となってはデイヴィースの延長交渉にもみてとれるように財政面も”軌道修正”がなされているようだが、この問題は決して一朝一夕で解決するようなことではない。現在無敗で首位に立つレバークーゼンがみせる活力、品格、意気のあったプレー、メンタル、威厳などは、明らかに「勝ち点差8」という言葉だけで表現しきれないほど、余りにも大きな差を感じさせるものだ。ドイツの大衆紙ビルトによれば、1−2の場面で交代を告げられたキミヒが、試合後にロッカールームにてショルト・レーヴACと激しい口論になったと報じており、さらにその動画がSNSにて拡散。トゥヘル監督もドレーセンCEOもこれを肯定も否定もせず、ただ両者ともキミヒの擁護に努め「敗戦後であればよくある出来事だよ。サッカーの世界のロッカールームなんだ。それに許容範囲内だよ」と強調。ただこれが何らかの処分に発展する可能性については「公に述べることではない」と話すにとどめた。なおキミヒ交代後から新戦力のサラゴサらが新たな風を吹き込み、バイエルンは息を吹き返して数的不利のなか、むしろ逆転していても不思議ではない前述の戦いぶりをみせることになる。

バイエルン・ミュンヘン バイエルン・ミュンヘンの最新ニュース